胃がんを予防する2つの方法と万が一の対処法|検査での早期発見が肝心

内視鏡専門医中原良太郎医師

「胃がんは日本人に多いって聞くけど実際はどうなんだろう?」

「胃がんを予防するってどうしたらいいんだろう?」

胃がんに関して皆さんどの程度知っているかというと、ピロリ菌が胃がんの原因となる程度は知っているかもしれませんが細かいことに関してまでは知らないと思います。胃がんの原因を知ることで胃がんの予防につながることが可能です。

胃がんは欧米人に比べて、日本人に多く、皆さんの身の周りの御高齢の方にも胃がんを患ってしまった方がいらっしゃるのではないでしょうか。国立がん研究センターが発表しているがんの統計ランキングで2019年度では、全体のがんの中で、胃がんは罹患数・死亡数ともに第3位であり、常に上位に位置しており、日本人に多いがんのひとつです。

胃がんは癌の中でも、極めて効果的な発病予防手段があります。早期発見さえすれば治癒可能ながん疾患の一つと考えられています。この点は是非皆さんに知っていただきいので、詳しく解説していきたいと思います。

がんの予防には、1次予防と2次予防があります。

1次予防:食事内容、喫煙や飲酒習慣、運動、などの日常的なことを変えることでがんの予防に努めること

2次予防:検診などで検査を受けることでがんの早期発見を行い早期治療につなげてがんの予防に努めること

以上の2つの予防法を理解することで、胃がんからご自身ご家族の身を守っていくことが出来るかと思います。それぞれについて解説していきたいと思います。

1-1、胃がんの1次予防

胃がんの1次予防は、以下のようなリスクを回避することで予防となる可能性があります。

・飲酒

・喫煙

・ヘリコバクター・ピロリ菌感染

・塩分過多

・野菜摂取不足

胃がんの予防を理解するためには、以上のような胃がんのリスクとなる因子を知ることが大切です。

上のリスク因子に対する対策を行うことで、胃がんの予防となる可能性があります。1次予防も大事なのですが、胃がんにおいては2次予防の検査が非常に重要です。

胃がんの2次予防について解説していきたいと思います。

1-2、胃がんの2次予防

胃がんの1次予防も非常に大事なことですが、どちらかというと2次予防を行うことで早期に胃がんを発見して早期に治療を行うことが重要なことだと考えられています。

2次予防である胃の検査にはどのようなものがあるかというと、以下のようなものが挙げられます。

・胃内視鏡検査(胃カメラ)

・胃X線検査(バリウム検査)

・ヘリコバクター・ピロリ菌検査

・ABC検診(胃がんハイリスク検診)

・CT検査

2次予防の各々の検査について解説していきたいと思います。

胃がんの2次予防では、胃内視鏡検査(胃カメラ)がお勧め

胃カメラは嘔吐反射の強い方の場合、やや苦しい検査になりますが、鎮静剤を使用すれば全く痛みが無く検査を行うことが可能です。寝ている間に胃カメラ検査が終わってしまいます。

胃カメラでは、微小な病変も早期診断が可能な上、ピロリがいるかどうかの推測も胃カメラで可能です。がんの確定診断に必要な病理組織を採取も可能なため、内視鏡検査を推奨致します。

胃X線検査(バリウム検査)

一方、胃X線検査は、造影剤(バリウム)を飲んでX線を照射しながら胃の形態・ヒダの走行異常がないかを見ていく検査です。

造影剤は腎臓や消化管に負担をかける他、放射線の被爆リスクが少量ですがあります。そして、最大の問題点は、バリウム検査では、がんの早期発見が胃カメラと比べて非常に難しいことです。

ヘリコバクター・ピロリ 菌の検査

ピロリ菌の初回検査は一般的に血液中のピロリ菌抗体価を測定する方法です。健診などでも抗体価の検査を受けることができます。

保険診療上でピロリ菌を検査する場合には、胃X線検査や胃カメラで萎縮性胃炎や胃潰瘍の診断を受けて初めて検査できます。胃カメラを受ける前にピロリ菌の検査をする希望される場合には、自費負担となるため注意して下さい。

ABC検査(胃がんハイリスク検診)

ABC検査は胃がんハイリスク検診のことで、ピロリ菌の抗体価を見て、ピロリ菌の有無のチェックに加え、ペプシノゲンという胃酸の数値を評価することで、胃炎の有無を評価していく検査です。

ABC検査は採血のみで簡便に胃がんのリスクを評価できます。ABC検査は、採血のみの評価で胃がんをある程度ふるい分けできる非常に優れた検査方法だと言えます。

一般的には、検診・健診で受けることができます。そのためABC検査は、健康な一般の方から一定数の胃がんリスクのある方を抽出するために行われています。

ABC検査は、健康診断などで行われているものですので、症状のある方は内視鏡検査を一度は受けることを推奨します。

ピロリ菌除菌後は胃カメラが必要

ピロリ菌除菌後の方に関しては、定期的な内視鏡検査が必要です。ピロリ菌除菌後の方がABC検査を受けると、A群という内視鏡不要の判定をされる場合も少なからずあります。ピロリ菌除菌後の方は、胃がんのリスクは減っていても一定数ありますから、定期的な内視鏡検査をおすすめします。

CT検査

CT検査は、内視鏡検査で胃癌が見つかったあとに行い全身の内蔵をチェックすることが多い検査方法です。CT検査で造影剤を使用する場合には、腎臓の機能が正常であることを確認する必要があります。造影剤は、腎臓に負担をかけやすいためです。腎臓の採血の数値が正常であれば、造影剤を使用して全身の臓器やリンパ節に転移がないかの評価を行います。

がんなどの腫瘤は血流が多くなるため、造影剤を使用することで臓器と腫瘤(がん)とのコントラストが明瞭になり適切な評価が可能になります。特に進行がんが見つかった場合には、がんの転移の評価には造影CT検査は非常に重要となります。

1-3、予防に重要なのが2次予防

胃がんは、生涯がん罹患リスクは非常に高く男性で10人に1人、女性で21人に1人は罹るがん疾患と言われています。1次予防で予防をしたとしても、ある一定の確率で胃がんにかかってしまう可能性があり得ます。

ではどうしたらいいかというと2次予防である検査を定期的に受けて、胃がんの早期発見に努めることが非常に大事なことと考えられています。

2次予防の検査で胃がんを早期発見できれば、胃がんの早期治療を行うことが出来ます。では早期発見とはどのようなことなのでしょうか。

胃がんの早期発見とは、粘膜にがんがとどまっている状態で発見すること。

粘膜にがんがとどまっているとは、一番表層の粘膜層にがんがある状態ということです。つまりがん細胞が深く入り込んでいない状態のことです。定期な胃の検査を受けることで、表層の粘膜内にとどまった状態で胃がんを早期に発見することが非常に重要です。早期発見をすることで、侵襲の低い内視鏡治療で胃がんを切除することができます。

では、さらに詳しく胃がんの予防について2章で解説していきたいと思います。

2章、胃がんの予防法

胃がんにも様々な種類があり、発症する年齢やその進行のスピードなどが異なります。この章では胃がんの特徴および2次予防で早期発見の大切さを解説していきたいと思います。

2-1、胃がんならではの特徴を把握する

胃がんには、年齢とともにリスクが上がる「分化型の胃がん」と若い方でもかかる「未分化型の胃がん(スキルス胃がん)」の2つに分けられます。

胃がんは、通常40歳から徐々に発症される方が多く、60~70歳代の方に好発しています。基本的には、通常のがんと同様に年齢が重要のリスクになります。

40歳を過ぎた方を対象に市町村で胃がん検診など始まります。職場でバリウムや胃カメラの検査を勧められた方もいらっしゃるかと思います。 ABC検診という胃がんハイリスク検診もあります。

胃がんは40歳以降の発症が大半なため、若い方は検査不要と言いたいところなのですが、未分化型の胃がん(スキルス胃がん)という若い方でも罹る可能性のある胃がんのタイプが存在します。

スキルス胃がんの場合は、胃がん検診でカバーされていない年齢層(若年層)の発症があるため、若い方でも胃の症状がある場合には胃カメラを受けることをお勧めします!

スキルス胃がんについては、「若い女性にもみられる進行胃がん『スキルス胃がん』」で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。

2-2、疑わしい症状がでたら2次予防を優先して検査をする

どのような症状の際に検査を受ければいいのかというと、以下のような胃がんの症状の場合には検査を考慮することをお勧めします。

・胃痛

・胃部不快感

・吐き気

・黒色便や吐血

・食欲不振

・腹部膨満感

・体重減少

・ふらつき

ストレスなどで胃の調子が悪いときに感じる胃痛や胃部不快感が、実は胃がんの初兆だったという事はあり得ます。胃がんの症状と書きましたが、これらの症状出現は内視鏡などで治療ができる早期の段階ではなく、進行したがんの状態まで至った状態となっている可能性があります。

早期の段階の胃がんの症状は

予後の良い早期のがんの状態では、胃がんは小さく浅いため、症状がでることはほとんどありません。胃がんに限った話ではありませんが、進行がんになって初めて症状を自覚することが多いのです。検査などを定期的にしていない場合には、がんの発見は遅れやすく致命的になってしまうことが多々あります。

進行した段階の胃がんの症状は

早期の状態のがんとは異なり、進行がんでは粘膜がえぐれたり、潰瘍などが出来やすくなります。潰瘍ができると潰瘍から血管が飛び出すことがあり、そこから出血をすることがあります。

胃がんから出血が見られると、黒色便や吐血、出血による貧血などが認められるようになります。出血が続くと、貧血になりふらつきや息切れなどの症状がでますので、検査を行うことで胃がんの発見につながります。

さらに胃がんの発見が遅れれば、がんの全身転移などが起こり得ます。その場合には、全身の易疲労感や体重減少、がんがさらに腹膜などに転移して腹水が溜まることもあります。腹水が溜まると、お腹が膨れてきて初めて気づく方もいます。

消化器の症状(胃の不快感、吐き気、腹部膨満など)は出たり、良くなったりを繰り返しますから、念のためくらいに思っても、胃カメラを受けることは非常に大切です。

早期の発見のためには定期的な胃カメラを

早期の状態で胃がんを発見するためには、胃カメラが必要となります。侵襲の少ない内視鏡治療で治癒できる段階は早期発見しかないため、定期的な胃カメラの検査を是非受けるようにすることをお勧めします。

繰り返しにはなりますが、胃がんの症状について一番大切なことは進行がんでないと症状は出にくいということです。

早期がんでは症状はないことがほとんどです。進行がんであれば外科的切除もしくは、転移があれば化学療法になりますし、早期胃がんに比べて生存率は大きく低下します。

2-3、胃がんのリスク因子を把握および意識をする

胃がんのリスク因子について各々解説をし、その重要性を理解していただけたらと思います。

胃がんのリスク因子の最重要因子であるピロリ菌

胃がんの95%以上の原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌による慢性的な胃炎が原因と言われています。

ピロリ菌は幼少期の頃から胃に住み着き、胃に慢性的な炎症をもたらします。長期的な胃の慢性炎症は、がん細胞の出現を許してしまう原因になります。

この慢性的な胃炎を「萎縮性胃炎」と呼びます。

ピロリ菌の発見は胃がんの診療の歴史において革命的な変化でした。ピロリ菌が駆除(ピロリ除菌)できるようになった現在は、胃がんは減り続けています。ピロリ菌に関しては、重要なテーマのため、別ベージのブログに詳しくまとめています。

(原田先生のブログ記事「ピロリ菌を除菌するとどうなるの?除菌後の本当の話し」を参照ください)

萎縮性胃炎の約80%は、ヘリコバクター・ピロリ菌による感染が原因ですが、ヘリコバクター・ピロリ菌の検査で陰性と診断された方でも萎縮性胃炎がある方は一定数いらっしゃいます。

他にも類似のヘリコバクター属の感染の可能性や、自己免疫など萎縮性胃炎の原因はいくつかあります。これまでに細菌感染症の病歴があり、抗生剤を内服したことのある方が自然にピロリ菌を除菌できていた場合もあります。

萎縮性胃炎は慢性的に胃粘膜に炎症を起こった状態です。長期的に炎症のある胃粘膜では、遺伝子異常が起こりやすく、胃がんを発症しやすくなります。

野菜果物不足・喫煙飲酒を防いで胃がんの1次予防を

塩分過剰摂取や野菜不足は胃がんの発生は食生活に関係があるといわれています。

新鮮な果物や野菜を適切な量を摂取することで胃がんの予防になるのではないかと報告されています。JPHC研究という日本人を対象とした研究では、野菜や果物を週1回以上摂取する人は、摂取しない人より胃がんのリスクが低下したと報告されています。

2005年に報告されたものでは、分化型の胃がんに限って言うと、最も多く野菜を食べていた人たちと最も少なく野菜を食べていた人たちを比べた研究では、野菜を最も多く食べていた人たちは下図のように約2分の1の胃がんリスクであったと報告されています。

JPHC研究より抜粋

野菜・果物不足はピロリ菌感染と比べると胃がんのリスクへの影響は少ないと考えられてはいますが、健康的な生活ということを考えると野菜・果物を摂取して規則正しい食生活を送ることは重要なことと考えられます。

野菜・果物には、カロテノイドやビタミンCなどの微量栄養素や抗酸化物質が含まれている。

カロテノイドやビタミンCなどには、抗腫瘍効果などの効果があることが報告されており胃がん予防に有用である可能性があります。新鮮な野菜・果物を摂取して胃がん予防としていくことは重要なことかと思われます。

胃がんのリスク・喫煙と飲酒

喫煙と飲酒は、胃がんのリスクであることは多数の論文でも統計的にも証明されています。両方とも好きな方には耳の痛い話ですが、健康のためには、適量な飲酒に留め、禁煙をお勧めします。

喫煙本数が多ければ多いほど胃がんリスクが高い。。

分化型の胃がんに限って言いますと、タバコを全く吸わない方と一日21本以上吸う方を比べると胃がんになりやすさ(胃がんのリスク)は、下図のように2倍以上という結果が報告されています。また、タバコの吸う本数が増えれば増えるほど胃がんのリスクが高くなることが分かりました。吸う本数が少なければ少ないほどリスクが低くなるということです。

JPHC研究より抜粋

未分化型の胃がん(スキルス胃がん)に関しては、タバコとの関係は無いという結果でした。

飲酒は胃噴門部がんのリスクを高める

胃全体の胃がんのリスクと飲酒の関係はないと報告されていますが、胃噴門部のがんに関しては関係性があると報告されています。飲酒は、下図のように胃噴門部がんのリスクを2~3倍程度高めるという報告がされています。胃噴門部とは、胃の一番上の部分で治療となると一番厄介な場所の一つです。

JPHC研究より抜粋

喫煙と飲酒に関する胃がんのリスクについて解説してきましたが、喫煙・飲酒はヘリコバクター・ピロリ菌に比べればそのリスクはかなり低いと言われています。喫煙・飲酒・ピロリ菌のリスクのオッズ比(病気が起こるリスクの割合のこと)を以下の表でまとめました。

  喫煙飲酒ピロリ菌感染
 オッズ比2.88(95%C.I.:1.26~6.62)  1.82(95%C.I.:0.81~4.11)

23.5(95%C.I.:6.84~80.7)

オッズ比をみると胃がんに関しては圧倒的にピロリ菌の影響が強いことが分かります。

オッズ比から見ると飲酒のリスクはさほどではないようですが、過度の飲酒は萎縮性胃炎を進行させるというデータもあります。ピロリ菌感染がある方では萎縮性胃炎の進行が進みますので、飲酒をすることでピロリ感染の有る方の場合には萎縮性胃炎がさらに進むことで胃がん発症を促進させるのではないかとも言われています。

ピロリ菌感染とともに喫煙・飲酒は気を付けるべき胃がん発症リスクと考えなければなりません。日常的に喫煙・飲酒を行っているようであれば、定期的に胃の検査を行うことで胃がん予防に努めていただけることが大切です。

3章、胃がん予防の注意点

胃がん予防の注意点として気を付けなければならないのは、ピロリ除菌後の対応です。ピロリ除菌を行ったとしても、胃がんのリスクは0(ゼロ)となることはありません。

ピロリ菌を除菌することで胃がんのリスクを低下させることは可能ですが、胃がんのリスク自体は残ります。ピロリ除菌後は、どのような状態となりどのような対応が必要となるのか解説していきたいと思います。

3-1、ピロリ菌と除菌について

これまでの胃がん診療といえば、胃がんと診断された方の大半がピロリ菌の感染による慢性胃炎が胃の背景にありました。内視鏡検査の際に、胃は炎症により非常に荒れた粘液だらけの中に、明瞭な胃がんがくっきりと見つかることが多くありました。

ピロリ菌の存在が一般の方にもかなり周知され、ピロリ菌の検査を受け、除菌される方が増えてきています。その結果、ピロリ菌による活動性胃炎を伴う胃がんは減ってきています。ピロリ菌が除菌できても胃がんのリスクは大きく減りますが、ゼロになるわけではなく、一定の胃がんのリスクが残存します。

ピロリ菌を除菌したとしても、毎年の定期的な胃カメラ検査が必要です。特に除菌した時の年齢が高い方はピロリ菌に感染していた年数が胃炎の炎症の強さに比例するため、リスクが高くなります。

3-2、除菌後の今後の胃がんの傾向

近年では、除菌後胃がんと言われるピロリ菌の感染後の特有の胃がんを見つけることが多くなりました。除菌後胃がんの特徴はがんの発育も緩やかなため、周囲の正常粘膜との境界が不明瞭にあり、がん自体の表層にも胃炎様の正常粘膜が分布することもあるため、従来のピロリ未除菌の胃がんに比べると、早期の発見が難しくなっています。

下の写真Aの症例はピロリ菌除菌後の定期検査で見つかった早期胃癌です(写真A左:通常の内視鏡像、写真A右:拡大した内視鏡像・黄色の丸枠内が除菌後のがん)。一見すると、周囲の胃炎粘膜と区別がつきにくいタイプの癌が増えてきており、内視鏡する医師にとっても注意深く、胃粘膜を評価する必要があります。

[写真A]

当院では、オリンパス社 X1シリーズという世界最先端の内視鏡システムを揃えております。高画質かつ多彩な波長を用いることで、微細な構造の変化も捉えやすく、早期胃がんを発見しやすい環境を整えております。

ピロリ除菌後胃がんについては、「ピロリ菌を除菌するとどうなるの?除菌後の本当の話し」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

ピロリ菌未感染でも発病する可能性のある胃がん

未分化型の胃がん(スキルス胃がん)

ピロリ菌が減少し、日々の内視鏡検査でも胃炎のないきれいな胃粘膜の方が増えてきていますが、胃炎のない方でも胃癌に完全に無縁なわけではありません。ピロリのような胃炎のある方にできる通常のタイプの胃癌は分化型といいます。胃粘膜の消化腺から胃炎を経て、消化腺構造を模して類似したがん細胞がゆっくり出現していきます。

しかし、ピロリ菌の感染や慢性胃炎のない方でもまれではありますが、残念ながら胃がんのリスクはあります。スキルス胃がんという言葉を聞いたことはありませんか?

スキルス胃がんは未分化癌といって、胃炎のないきれいな粘膜から出現することも多く、通常の胃粘膜構造を壊すように発達する上、比較的早く増殖していきます。

スキルス胃がんは若年者でも発症する

未分化型胃がんの厄介なところは、胃がん検診が始まる40歳未満の若い年齢の方に起こりやすい点です。若い方のがん細胞の場合、進行が非常に早いです。スキルス胃がんは、胃壁の壁の中を横方向に進展していくため、胃粘膜の表面に顔を出さない場合も多い上、顔を出しても非常に僅かな変化のことがあります。

胃カメラの際に検査が不十分であった場合などには、スキルス胃がんの発見が遅れる場合があります。40歳未満の若い患者さんにも関わらず、症状が出たころには、すでに腹膜播種があり、末期で見つかることも少なくありません。

胃カメラの際には、十分な検査が行われるようにする必要があります。静脈麻酔などを使用しない場合には、げっぷや嘔吐反射などが起きてしまうため検査が不十分になってしまうことがあります。静脈麻酔を使用した場合には、げっぷ・嘔吐反射などが起こらないためしっかりと検査を行うことが可能です。胃カメラの際には、静脈麻酔を使用することをお勧めします。

胃底腺型胃がん

頻度としては少ないですが、胃底腺型胃癌という萎縮性胃炎のないきれいな粘膜に褪色調かつ血管拡張の目立つ、粘膜深部から発生する胃がんや、や過形成ポリープという良性ポリープに非常に似たラズベリー型胃癌など症例も報告されるようになってきました。

こういったピロリ菌陰性タイプの胃がんの頻度はすくないため、心配しすぎる必要はありませんが、数年に一度は胃の内視鏡検査は受けることをお勧めします。

胃がんについてご不安な方は、一度当院の専門外来でぜひご相談してください。診察。検査は、WEB予約で承っています。

4章、万が一胃がんが発見されたら

2次予防の検査で万が一胃がんが発見された場合には、胃がんの進行度合いに合った適切な治療が必要となります。

胃がんの進行度合いの評価方法である病期(ステージ)と各ステージにおける治療法を解説します。

4-1、胃がんのステージ分類

胃がんには、病期(ステージ)というもので初期の状態や進行した状態というように分類されます。この病気を分類することをステージ分類と呼び、治療方針に必要不可欠なものとなっているのです。

ステージ分類で最も大切なことは、以下の2つです。

①胃壁の中におけるがんの深さ(深達度)

②がんが胃の外にどれだけ広がっているか(リンパ節と他臓器)

 

①と②によって胃がんの進行の度合い(ステージ)が分かります。胃がんのステージによって治療法が異なってきます。

深達度に関しては、下図のように胃がんの浸潤の度合いによって決まります。

4-2、各ステージにおける胃がんの治療法

胃がんの各ステージにおける治療方針は、ガイドラインにより下記のように細かく分類されています。

胃癌治療ガイドライン. 医師用2018年1月改訂 [第5版]より抜粋.

ここでは、おおまかに解説していきたいと思います。

粘膜内にとどまる胃がん

この場合には、内視鏡的な治療が可能です。胃粘膜には、毛細血管レベルの分布のみのためリンパ節転移などの可能性は極めて低いとされています。この段階で内視鏡的に治療を行えば、99.9 % 以上の確率で治癒が可能です。この段階で発見することが肝になります。

1年に1回程度の内視鏡検査(胃カメラ)を行うことで、粘膜内の初期の段階で早期発見につながる可能性があります。

粘膜下層に深くがんが浸潤した場合には外科手術!

粘膜下層に0.5mm(500μm)以上の浸潤が認められる場合には、基本的に内視鏡治療の適応とはならない。

粘膜下層では、血管やリンパが豊富なため、わずかに0.5mmの粘膜下層へのがんの浸潤でも、リンパ節への転移を疑う必要がでてきます。リンパ節への転移が疑われる場合には、リンパ節郭清(かくせい)といってがんの周囲リンパ節を切除する必要があります。そのため外科的な治療が必要になります。

0.5mm以内の粘膜下層への浸潤(T1bといいます)では、一部の病変に関しては内視鏡的な治療も可能です。

ガイドラインでは、顔つきの良い胃がん(高分化型)で3cm以下のT1bの胃がんの場合には、リンパ節転移の確率が比較的低いと考えられており内視鏡的な治療の適応となっています。

ただし、0.5mm(500μm)以上がん細胞が粘膜下層に浸潤しまうと、リンパ節転移への転移の確率が高くなってしまいます。このような場合には、基本的には外科手術が必要となってしまいます。

固有筋層以深への浸潤の胃がん

固有筋層まで浸潤が起こるとがん細胞がかなりの大きさに育っており、遠隔への転移の可能性が出てきます。近傍のリンパ節転移のみであれば手術可能ですが、腹膜や肝臓などの遠隔転移があれば手術困難なため、化学療法が必要となります。

進行の度合いによって治療方法が異なることが理解できたと思います。もし胃がんが発見されたとしても早期の段階で発見され、侵襲の少ない治療方法が選択できることに越したことはないかと思います。早期発見のために大切な2次予防法の胃内視鏡検査(胃カメラ)をぜひ適切な時期および間隔で受けていただければと思います。

遠隔転移などが疑われる胃がん

遠隔転移などが疑われる場合には、化学療法を選択。

造影CT検査を胃がんの診断後に行いますが、肝臓などの遠隔臓器や腹膜に転移し広がっている場合には、手術を行っても一括でがん細胞をすべて取り除けないため、外科的手術は困難となります。このような場合には、治療は化学療法(いわゆる抗がん剤)となります。

胃の抗がん剤は他のがん比べると、抗がん剤が効きやすいがんではありません。治癒を目標とするものではなく、基本的には、がんが増殖するスピードを緩めることを目的とします。そのため、胃がんの予防のためには、いかに早期発見できるかが大切なポイントとなるのです。

まとめ

今回は、胃がんの予防について解説しました。胃がんの予防については、以下のポイントを理解していただくことが大切です。

胃がんの予防には1次予防と2次予防がある

ピロリ菌を除菌することは重要な胃がん予防法である

ピロリ除菌後も定期的な内視鏡検査が必要

2次予防である検査で胃がんを早期で発見することが大切

若い人でもスキルス型の胃がんになることがある

以上のポイントを理解して胃がん予防に努めていただけたらと思います。

当院では、胃内視鏡検査の相談・検査を24時間WEBで予約が可能です。ご気軽にご相談いただけたらと思います。

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