大腸がんの治療・大腸ESDってどんな治療なの?

内視鏡

医師から「あなたの大腸に“がん”がありました。治療が必要です。」と言われたら、誰しもが「どうすればいいんですか?」と不安に思うことでしょう。

「がん」と聞いたとき、家族のこと、入院、仕事、治療費など、さまざまなことが頭をよぎるはずです。

しかし、大腸がんといってもすべてが重症とは限りません。早期の大腸がんであれば、入院は2泊3日程度で済むこともあります。

最近では、内視鏡を使った治療法が進歩しており、早期のがんであれば開腹せずに治療が可能です。とくに「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」という治療法が注目されています。

この記事では、そのESDについて詳しくご紹介します。

1章:大腸ESDってどんな治療?

1-1. 大腸ESDとは

「大腸ESD」は、大腸の腫瘍(がん・ポリープ)に対して行う内視鏡治療です。

ESDとは「Endoscopic Submucosal Dissection(内視鏡的粘膜下層剥離術)」の略です。

以前はEMR(内視鏡的粘膜切除術)が主流でしたが、EMRでは切除が難しい大きな腫瘍に対応するため、ESDが開発されました。

ESDでは外科手術のように開腹する必要がなく、低侵襲かつ全身麻酔不要で行えるため、患者様の負担が軽くなっています。

1-2. ESDに使用される電気メス

大腸ESDでは以下のような電気メスを使用します。

Dual Knife®(オリンパス社)

Dual Knife

Flush Knife BT®(フジフィルム社)

Flush Knife

これらの電気メスを内視鏡の先端から出して、粘膜下層を剥離しながら腫瘍を切除していきます。

1-3. 腫瘍の切除方法

消化管の壁は以下のような層で構成されています。

  • 粘膜層
  • 粘膜筋板
  • 粘膜下層
  • 固有筋層
  • 漿膜

ESDではこのうち「粘膜下層」を電気メスで剥がして腫瘍を取り除きます。

粘膜下層のシェーマと実際の画像

粘膜下層の模式図と写真

治療中は煙や脂で画面が曇ることもあります。

電気メスによる粘膜下層の剥離中

剥離中の写真

ESDの実際の動画

1-4. Water-pocket ESD法とは

私たちの医療機関で導入している独自の治療法が「Water-pocket ESD法」です。

Water-pocket法の流れ

Water-pocketの模式図

通常はCO₂(二酸化炭素)を用いますが、私たちは「水(生理食塩水)」を使用した方法を採用しています。これは米国の内視鏡医Kenneth F. Binmoeller氏によるUnderwater EMR法に着想を得たものです。

Pocket内に水を溜めて切除

腸管全体に水を満たす方法ではなく、粘膜下層にPocketを作ってその中に水を溜めるというシンプルな発想から生まれました。

ビンメラー医師との写真

左:ビンメラー医師 右:原田医師

Water-pocket ESD中の様子

Water-pocket中

Water-pocket法の利点

  • ① 水中で安全に「粘膜下層」の剥離が可能
  • ② 治療時間が短く身体への負担が少ない
  • ③ 難症例にも対応しやすい
  • ④ 入院期間が短い

① 安全性の向上(Floating, Optical zoom, Absorption)

  • Floating effect:水中で粘膜下層が浮いて見えやすくなる
  • Optical zoom effect:水の屈折により拡大視が可能
  • Absorption effect:焼灼時の煙が水に吸収され視界が確保される

粘膜下層の比較:a. 空気下/b. Water-pocket下

浮遊効果の比較画像

② 治療時間の短縮

Water-pocket法では明らかに治療時間が短縮され、術後の麻酔量も少なく、腹痛の訴えも少ない傾向があります。

③ 難症例への対応力

線維化が進んだ「粘膜下層」でもWater-pocket法なら治療時間の短縮が可能で、明確に効果が現れました。

④ 入院期間の短縮

私たちの施設では、多くの症例で2泊3日での治療が可能です。

ESDとWater-pocket ESDの比較

比較項目通常のESDWater-pocket ESD
Floating effectなしあり
Optical zoom effectなしあり
Absorption effectなしあり
治療時間普通短い
高度線維化例の治療時間長い短い

Water-pocket法の動画

2章:どんな病気に大腸ESDは適応があるの?

2-1. 大腸ESDの適応

保険診療上、大腸ESDの適応となる病変は以下の通りです:

  • 2cm以上の早期大腸がん
  • 粘膜下層に線維化を伴う2cm未満の早期がん
  • 5mm〜1cmの神経内分泌腫瘍(カルチノイド)

2-2. 早期の大腸がんとは

「早期がん」とは、がんの浸潤が粘膜層もしくは粘膜下層にとどまるものを指します(TisまたはT1)。

大腸がんの深達度の模式図

大腸がんの進行度図

2-3. 深達度T1aとT1bの違い

  • T1a: 粘膜下層への浸潤が1mm未満 → ESDで治療可能
  • T1b: 1mm以上 → 外科手術(リンパ節転移リスク)

T1aの症例では内視鏡治療で完結しますが、T1bでは原則、腹腔鏡や開腹による外科手術が選択されます。

3章:大腸ESDの流れ

3-1. 外来から入院まで

外来で診断がついた後は、入院日を調整し、必要に応じて再度の大腸カメラや血液・画像検査を行います。

入院日当日に治療を行うケースが多く、朝から来院していただくことが一般的です。

外来から入院の流れ

3-2. 治療の流れ

ESDは大腸カメラ同様、下剤による前処置を経て行います。

治療時間は病変の大きさや場所によって異なり、10分程度のものから数時間に及ぶこともあります。

3-3. 入院日数

標準的な入院期間:2泊3日(※施設により異なります)

当日は絶食、翌日に問題がなければ軽い食事を再開し、翌々日に退院が可能です。

出血・腹痛などの合併症が出た場合は、入院期間が延びることもあります。

3-4. どこで受けられる?

大腸ESDは、厚生労働省の施設基準を満たした専門病院でのみ実施可能です。

年間50件以上の実績がある施設、または医師個人で500件以上の経験がある場合、より安心して治療を受けることができます。

4章:大腸ESDの費用

1回の入院・治療でおよそ40~50万円程度(3割負担の方)

保険診療のため、高額療養費制度が利用できます。実際の自己負担額は収入に応じて以下の通りです。

所得区分自己負担限度額多数該当時
住民税非課税35,400円24,600円
年収300万円以下57,600円44,400円
年収370~770万円80,100円+(医療費−267,000円)×1%44,400円
年収770~1,160万円167,400円+(医療費−558,000円)×1%93,000円
年収1,160万円以上252,600円+(医療費−842,000円)×1%140,100円

※別途、食事代(460円/1食)と保険外のベッド差額料が必要な場合があります。

※記載の金額・制度は2025年5月現在の情報に基づいております。制度変更の可能性があるため、最新情報については各医療機関や保険者にご確認ください。

まとめ

  • 大腸ESDは外科手術より低侵襲な治療法です
  • Water-pocket法は安全で、治療時間も短縮できます
  • 2泊3日の入院で治療が完了するケースも多くあります
  • 信頼できる医療機関・医師を選ぶことが大切です

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※この記事は2022年9月1日に公開され、2025年5月10日に更新されました。

参考文献

施設紹介

東京千住・胃と大腸の消化器内視鏡クリニック 足立区院 >>

ホームページ https://www.senju-ge.jp/

電話番号 03-3882-7149

住所 東京都足立区千住3-74 第2白亜ビル1階

診療時間
9:00~12:00
14:00~17:30

※予約検査のみ
※祝日のみ休診

アクセス

JR北千住駅西口より徒歩2分、つくばエクスプレス北千住駅より徒歩2分、東京メトロ日比谷線北千住駅より徒歩2分、東京メトロ千代田線北千住駅より徒歩2分、東武伊勢崎線北千住駅より徒歩3分

尚視会での内視鏡検査・診察は24時間予約を承っています。

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