
皆さん、「FODMAP(フォドマップ)」という言葉を初めて聞いて、気になって検索された方も多いのではないでしょうか。FODMAPとは、私たちの小腸で分解・吸収されにくい、短鎖炭水化物に分類される糖類の総称です。
FODMAPという言葉は、以下の5つの英単語の頭文字をとって作られた造語です。
- Fermentable(発酵性)
- Oligosaccharides(オリゴ糖)
- Disaccharides(二糖類)
- Monosaccharides(単糖類)
- Polyols(ポリオール)
これらの糖類は、小腸での吸収が困難であるため、摂取しすぎると腸内でガスが発生したり水分のバランスが乱れたりして、腹痛・下痢・膨満感などの症状を引き起こすことがあります。特に、過敏性腸症候群(IBS)の方にとっては、FODMAPの摂取が症状の悪化につながる場合もあります。
今回は、このFODMAPとその影響、さらに低FODMAP食を中心とした食事療法について詳しくご紹介していきます。
目次
1章:FODMAP(フォドマップ)とは何か
1-1:FODMAPの意味と定義
FODMAPは短鎖の糖質のグループで、吸収されにくく、大腸に到達してから腸内細菌によって発酵されやすい特徴を持ちます。その過程でガスが発生し、腹部の張りや不快感の原因となることがあります。以下に各成分の簡単な特徴を整理します。
成分 | 特徴 |
---|---|
オリゴ糖 | タマネギ、ニンニク、麦類などに含まれる |
二糖類 | 主に乳糖(ラクトース)で、牛乳・ヨーグルトなどに含まれる |
単糖類 | 果糖(フルクトース)が代表的で、果物やハチミツなどに含まれる |
ポリオール | ソルビトールやキシリトールなど、糖アルコールに分類される |
1-2:FODMAP摂取による主な症状
FODMAPを過剰に摂取すると、以下のような消化器症状が現れることがあります。
- 腹痛
- 下痢
- 腹部膨満感
- ガスの発生
これは、小腸で吸収されなかったFODMAPがそのまま大腸に到達し、腸内細菌により急速に発酵されることでガスが発生し、水分が腸内に引き寄せられるからです。この結果として、便が緩くなったり、お腹が張ったりすることになります。
1-3:高FODMAP食品と低FODMAP食品の違い
FODMAPを多く含む食品は「高FODMAP食品」、少ないものは「低FODMAP食品」として分類されます。以下にそれぞれの食品例をまとめた表を掲載します。
高FODMAP食品一覧
カテゴリー | 具体的な食品例 |
---|---|
果物 | リンゴ、梨、スイカ、マンゴー、さくらんぼ、プラムなど |
野菜 | タマネギ、ニンニク、カリフラワー、アスパラガス、グリンピースなど |
穀類 | ライ麦パン、小麦製品、全粒粉パスタ、シリアル |
豆類 | インゲン豆、ひよこ豆、そら豆 |
乳製品 | 牛乳、ヨーグルト、ソフトチーズ |
ナッツ類 | カシューナッツ、ピスタチオ |
調味料 | にんにく・たまねぎ入りのソース類 |
低FODMAP食品一覧
カテゴリー | 具体的な食品例 |
---|---|
果物 | バナナ、キウイ、オレンジ、イチゴ、パイナップル |
野菜 | にんじん、ナス、トマト、ほうれん草、きゅうり |
穀類 | 白米、玄米、そば、オートミール |
乳製品 | バター、モッツァレラチーズ、カマンベールチーズ |
肉・魚 | 牛肉、鶏肉、魚介類 |
ナッツ類 | マカダミアナッツ、ピーナッツ、くるみ |
このように、FODMAPの多い食品と少ない食品を正しく理解し、日々の食事に活かしていくことが、消化器症状の予防や緩和につながります。
2章:FODMAPと病気の関係
2-1:逆流性食道炎とFODMAP
FODMAPと関連して注目される病気の一つが、逆流性食道炎(GERD)です。実は、過敏性腸症候群(IBS)と逆流性食道炎は深い関係があり、IBSの患者さんの約3分の1は逆流性食道炎も併発していると報告されています。逆に、逆流性食道炎を持つ方の3分の1もIBS症状を抱えていると言われています。
ある研究では、IBS症状を持つ逆流性食道炎の患者さんに対して、小麦を使った麺類(高FODMAP)と、お米を使った麺類(低FODMAP)を食べ比べる試験が行われました。結果は、小麦の麺を食べたグループでは呼気中の水素・メタンガス濃度が上昇し、胸焼けや膨満感、げっぷといった症状が強く現れました。つまり、高FODMAP食品の摂取により、腸内ガスが増え、それが腹部のみならず胸部の症状にも影響を及ぼしている可能性が示されたのです。
このことから、低FODMAP食を意識することで、IBS症状の緩和に加え、逆流性食道炎の症状改善にもつながる可能性があると考えられています。
FODMAPの影響は腸だけでなく、逆流性食道炎などの上部消化器症状にも関係すると言われています。症状についてわかりやすく紹介しているマンガもぜひご覧ください。
2-2:地中海食とFODMAPのコラボレーション
地中海食とは、オリーブオイル、魚介類、野菜、ナッツ、果物を中心とした食事スタイルを指します。この地中海食には、抗酸化・抗炎症・抗菌といった作用を持つポリフェノールが豊富に含まれており、心血管病の予防や生活習慣病対策に効果があるとされています。
近年では、この地中海食と低FODMAP食を組み合わせることで、IBSの症状をさらに改善できるのではないかと考えられています。特に、オリーブオイルに含まれるポリフェノールには、腸内の軽度炎症を抑える効果が期待されており、IBS患者さんの腸粘膜の健康をサポートする可能性があるのです。
要素 | 期待できる効果 |
---|---|
オリーブオイルのポリフェノール | 抗炎症・抗菌・抗酸化作用で腸粘膜保護 |
低FODMAP食 | ガス産生・水分過剰移動の抑制 |
この組み合わせによって、腸内環境の改善、腹部症状の緩和が一層期待できるのではないかと、現在注目が高まっています。ただし、まだ大規模な研究は少なく、今後のさらなるエビデンスの蓄積が待たれるところです。
3章:低FODMAP食療法について
低FODMAP食療法は、オーストラリア・モナッシュ大学の消化器研究チームによって開発されました。正式には「Low-FODMAP diet(LFD)」と呼ばれ、特に過敏性腸症候群(IBS)の症状緩和に効果が期待されています。
3-1:低FODMAP食療法の効果
モナッシュ大学による研究では、低FODMAP食を2〜6週間取り入れた結果、以下のような改善が見られたと報告されています。
改善が期待できる症状 |
---|
腹痛・腹部不快感の軽減 |
腹部膨満感の軽減 |
排便パターン(下痢・便秘)の改善 |
生活の質(QOL)の向上 |
もちろん、低FODMAP食はIBSそのものを完治させるものではありませんが、症状をコントロールし、以前よりも快適な生活を送る助けとなることが期待されています。
3-2:低FODMAP食療法を始める際の注意点
低FODMAP食を始める前には、必ず医師の診察を受けることをおすすめします。なぜなら、IBSと似た症状を呈する重大な病気(例えば大腸がん、炎症性腸疾患など)との鑑別が必要だからです。
日本消化器病学会のガイドラインでも、IBSが疑われる場合は大腸内視鏡検査を受けることが推奨されています。
自己判断で「きっとIBSだろう」と思い込まず、きちんと医師の診断を受けたうえで、必要に応じて低FODMAP食療法に取り組んでいきましょう。
3-3:低FODMAP食療法の流れ
低FODMAP食療法には、基本的に以下の3ステップがあります。
ステップ | 内容 |
---|---|
1. 除去期 | 2〜6週間、可能な限りFODMAPを含まない食品中心の食事に切り替える |
2. 再導入期 | 1種類ずつ高FODMAP食品を少量から再導入し、どれが症状を引き起こすか確認 |
3. 維持期 | 自分に合った低・中・高FODMAP食品を組み合わせた食生活を確立する |
このように、単純に「一生低FODMAPだけを食べ続ける」というものではありません。最終的には、なるべく食事制限を少なくし、自分に合ったバランスの良い食事スタイルを作ることが目標です。
4章:FODMAPに関するよくある質問
4-1:低FODMAP食はどこで手に入るの?
現状、日本国内では「低FODMAP食品」として市販されている商品はほとんどありません。そのため、日常的には、食材選びを工夫して、低FODMAP食に適したメニューを自分で作る必要があります。
一方、欧米では、下記のような「Low-FODMAP認定マーク」の付いた製品がスーパーマーケットで広く流通しています。
今後、日本でもFODMAPへの理解が広がるにつれて、グルテンフリー食品のように流通が進むことが期待されています。
4-2:モナッシュ大学のFODMAPアプリとは?
オーストラリア・モナッシュ大学が公式に提供している「Monash University FODMAP Diet アプリ」では、食材ごとにFODMAPの含有量がわかりやすく整理されています。
このアプリを使えば、自分に合う食材・避けるべき食材を記録しながら管理できるため、低FODMAP食療法を実践する際に非常に役立ちます。
※現在は英語版のみですが、直感的に使いやすい設計になっているため、英語に不安がある方でも比較的使いやすい仕様です。
まとめ
今回は「FODMAPとは何か」から「過敏性腸症候群とFODMAPの関係」、「低FODMAP食療法」まで、幅広く解説してきました。
- FODMAPは小腸で吸収されにくい糖質群のこと
- 高FODMAP食を多く摂ると腹痛・下痢・膨満感などの症状が出やすい
- 過敏性腸症候群(IBS)の症状緩和に低FODMAP食が有効とされている
- 逆流性食道炎にも低FODMAP食が効果的な可能性がある
- 地中海食(オリーブオイルなど)との組み合わせも注目されている
- 低FODMAP食療法は自己流ではなく、医師の診断を受けた上で始めるべき
特に、日常的なお腹の症状(腹痛・下痢・便秘・ガス溜まりなど)に悩んでいる方は、一度、FODMAPと向き合ってみる価値があるでしょう。
自分自身に合った食事スタイルを見つけ、より快適な毎日を目指してみませんか?
※この記事は2022年8月16日に公開された内容を、2025年4月25日に最新の情報に基づき加筆・修正しました。
施設紹介
東京千住・胃と大腸の消化器内視鏡クリニック 足立区院 >>
ホームページ https://www.senju-ge.jp/
電話番号 03-3882-7149
住所 東京都足立区千住3-74 第2白亜ビル1階
診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
9:00~12:00 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
14:00~17:30 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ※ |
※予約検査のみ
※祝日のみ休診
JR北千住駅西口より徒歩2分、つくばエクスプレス北千住駅より徒歩2分、東京メトロ日比谷線北千住駅より徒歩2分、東京メトロ千代田線北千住駅より徒歩2分、東武伊勢崎線北千住駅より徒歩3分