大腸がんの初期症状とは?漠然とした不安をなくすために専門医が解説

血便

大腸内でがんが進行すると、がんからの出血による血便や、腸管内腔の狭窄による便秘・閉塞などの症状が現れることがあります。一方で、大腸がんの初期症状に関しては、ほとんど自覚できないケースが多いと考えられています。

大腸という臓器は、筋肉でできたチューブ状の構造を持っています。大腸の長さは約1.5m、内腔(腸管内の直径)は約5cmで、主に次の4つの領域から成り立っています。

領域部位
上行結腸+盲腸右下腹部から右上腹部
横行結腸右上腹部から左上腹部
下行結腸左上腹部から左下腹部
S状結腸+直腸左下腹部から骨盤内

この大腸の腸管内にがんが発生し進行すると、出血や腸管の閉塞などの症状が出現します。

進行がんとは異なり、大腸がんの初期では、わずかな出血や排便状況の変化といった非常にわかりにくい症状しか現れないため、早期発見には細かな体調の変化を見逃さない注意深さが必要です。

今回は、「大腸がんの初期症状」について、詳しく解説していきます。

大腸がんには、さまざまな症状が現れます。代表的な症状としては「出血」や「閉塞症状」が挙げられますが、これらはがんが進行しないと出てきません。

つまり、大腸がんが初期段階である場合、明確な自覚症状はほとんどないのです。

そのため、日常生活で感じる小さな変化や、ちょっとした体調の違和感をきっかけに、大腸の検査を受けることが非常に大切だと考えられています。

この章では、初期~進行した大腸がんにおける症状について、順を追って解説していきます。

1-1、大腸がんの初期症状

初期段階の大腸がん(早期大腸がん)であれば、ほとんど症状は現れません。

つまり、がんが進行しなければ、大腸がん特有の症状が現れないということです。

ただし、稀に初期段階でも軽微な出血や排便パターンの変化が起こることがあるため、違和感があった場合は見逃さず、医療機関を受診することが大切です。

1-2、おならは大腸がんの初期症状?

おならが多いことを心配して大腸がんを疑う方もいますが、基本的におならと大腸がんの初期症状は直接の関連はありません。

おならは、腸管内でガスが発生することにより生じます。腸管ガスの原因には、FODMAP(小腸で分解・吸収されにくい短鎖炭水化物を多く含む食物)摂取によるものなどが挙げられます。

FODMAPについて詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

なぜFODMAPは、腸の健康を左右するのか?知っておくべき重要なこと

進行した大腸がんにより腸管が狭窄すると、ガスが溜まりやすくなり、結果的におならの頻度が増えることもありますが、あくまで進行後の話です。初期症状としては、おならの増加は心配しなくて問題ないとされています。

1-3、進行大腸がんの症状

進行した大腸がんでは、以下の2つの代表的な症状が見られることがあります。

  • 出血症状
  • 閉塞症状

出血症状

進行したがんでは、がん表面が脆くなり、便通時の擦過によって容易に出血します。がん組織には異常血管が発生しているため、表面の損傷による出血が起こりやすいのです。

・直腸がんの場合:鮮血が出やすい

・大腸の奥側(右側結腸など)の場合:赤黒い血便として現れる

出血が続くと、貧血をきたし、以下のような症状が出現する可能性があります。

・易疲労感

・息切れ

・体力低下

閉塞症状

がんによる腸管狭窄が進行すると、次のような症状が現れることがあります。

・腹部膨満感

・腹部不快感

・吐き気・嘔吐

・しぶり腹(頻回の便意や残便感)

・下痢・便秘

・便柱狭小(便が細くなる)

さらに閉塞が悪化すると、腸閉塞(イレウス)となり、緊急対応(イレウスチューブ留置、大腸ステント挿入、または手術)が必要となるケースもあります。

2章、大腸がん症状別の実施すべき検査とは

大腸がんを疑う症状が現れた場合、どのような検査を行うべきでしょうか?この章では、症状に応じた検査方法について詳しく解説していきます。

2-1、血便がある場合の検査

血便が認められた場合には、大腸カメラ検査が必須です。

また、出血の影響で貧血が生じている可能性があるため、血液検査も必要となります。重度の貧血が判明した場合には、輸血を要することもあります。

大腸カメラ検査では、病変が確認された場合に組織生検(ポリープや腫瘍の一部を採取する検査)を行い、病理診断で確定診断をつけます。

さらに、がんの進行度を確認するために、CT検査やPET-CT検査を行い、リンパ節転移や遠隔転移の有無を調べる必要があります。

これらの結果に基づき、腹腔鏡手術・開腹手術・化学療法といった治療方法を検討していきます。

血便や排便の変化がみられた場合は、痔や肛門疾患との見極めも大切です。女性医師による診療をご希望の方は、こちらをご覧ください。

2-2、閉塞症状がある場合の検査

閉塞症状が認められる場合には、まずCT検査や腹部超音波検査で閉塞の程度や部位を確認します。

CT検査で腸管の狭窄や腸閉塞が認められた場合、状況に応じて以下の処置が検討されます。

  • イレウスチューブ(腸内減圧チューブ)の挿入
  • 大腸ステントによる腸管拡張
  • 外科的手術による解除

閉塞状態が一時的に解除された後、改めて大腸カメラ検査を実施し、がんの確定診断を行う流れになります。

2-3、腹部膨満感・不快感など腹部症状がある場合

腹部膨満感や不快感など、あいまいな腹部症状を感じる場合でも、以下のような条件に該当する方には大腸カメラ検査を推奨します。

・45歳以上の方

・飲酒や喫煙の習慣がある方

・糖尿病・脂質代謝異常・肥満がある方

・運動不足の方

・大腸がんや大腸ポリープの家族歴がある方

・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)の既往がある方

・赤肉や加工肉を頻繁に摂取する方

上記に該当しない場合でも、担当医師と相談のうえ、検査の必要性について判断していくことが重要です。

3章、大腸がんの検査まとめ

ここからは、大腸がんが疑われた際に実施される検査内容を、それぞれ詳しく解説していきます。正しい診断を受け、最適な治療を選択するためには、どの検査がどのような役割を持つか理解しておくことが大切です。

3-1、採血検査

大腸がんが疑われる場合、採血検査では以下の項目をチェックします。

検査項目内容
Hb(ヘモグロビン)出血が進行すると低下する
AST・ALT・γ-GTP肝転移がある場合に上昇する可能性あり
LDH進行がんでは上昇することがある
CEA・CA19-9腫瘍マーカー。進行とともに上昇する

これらの異常値が認められ、かつ腹部症状や排便異常がある場合には、速やかに大腸精査を受ける必要があります。

3-2、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

大腸がんの診断において、大腸カメラは不可欠な検査です。

大腸カメラは、消化器内科医または消化器外科医によって実施されますが、特に内視鏡専門医による検査が推奨されています。

スクリーニング(健診・人間ドック)でも用いられ、大腸がんの早期発見に役立ちます。

検査前には、大腸内をきれいにするための下剤服用が必要です。検査は肛門からスコープを挿入し、直腸から盲腸まで進めて粘膜を観察しながら戻ってくる手技です。

スコープ先端にはCCDカメラが搭載されており、リアルタイムで画像観察が可能です。また、ポリープを見つけた場合には、その場で切除することもできます。

検査中のお腹の張りを軽減するため、二酸化炭素(CO2)送気が使用されるため、検査後の腹部不快感も抑えられます。

大腸カメラは苦痛を伴うことが多いため、静脈麻酔(鎮静剤)を使用してリラックスした状態で検査を受けることも可能です。

大腸カメラ検査の利点と欠点は以下の通りです。

利点欠点
大腸全体を直接観察できる
組織検査・ポリープ切除が同時に可能
大腸がん以外の疾患も診断できる
下剤内服が必要
費用がやや高い
静脈麻酔を使わないと苦痛を伴うことがある
半日〜1日かかる場合もある
まれに合併症(穿孔・出血)が起こる

3-3、CT検査

CT検査は、短時間で腹部を撮影できるため、大腸がんの存在や進行度、リンパ節転移、遠隔転移の有無を調べるために非常に有効な検査です。

単純CT

造影剤を使用せずに撮影を行うCT検査です。検査時間は5分程度と短く、身体への負担も比較的少ないですが、画像の精度は造影CTに劣ります。

造影CT

造影剤を静脈注射してからCT撮影を行います。腫瘍や転移巣の描出能が高く、より正確な診断が可能になります。ただし、アレルギー反応やアナフィラキシーショックを引き起こすリスクがあるため、注意深い対応が必要です。

※CT検査では一定の放射線被ばくが生じますが、通常の診療において健康被害が生じるレベルではありません。

3-4、PET-CT検査

PET-CT検査(FDG-PET検査)は、ブドウ糖代謝が活発な癌細胞の性質を利用して病変を検出する検査です。

FDG(フルオロデオキシグルコース)という薬剤を注射し、全身を撮影することでがんの転移や再発の有無を調べることができます。CT検査では見つけにくい微小転移の検出にも役立ちます。

※PET-CTも放射線を使用する検査ですが、通常の検査頻度では健康に重大な影響を及ぼすものではありません。

3-5、FIT-DNA検査(Cologuard®)

FIT-DNA検査は、便潜血検査に加えて便中のDNA異常も検出する最新の検査法です。

大腸がんや大腸ポリープを高感度で発見できるとされていますが、偽陽性(異常がないのに異常と判定される)率が高い点が課題です。

アメリカでは一部で保険適用されていますが、検査費用が高額であり、日本ではまだ広く普及していません。

コストパフォーマンスや正確性を考慮すると、やはり現状では大腸カメラ検査が最も信頼性の高い方法といえるでしょう。

4章、大腸がんの治療とは

万が一、大腸がんと診断された場合には、早急に適切な治療を受ける必要があります。がんの進行度(ステージ)に応じて治療方法が異なるため、事前にその違いを理解しておきましょう。

4-1、早期大腸がんの治療

早期発見された大腸がんは、内視鏡による治療(内視鏡的切除)が可能です。

治療対象となるのは、がんが粘膜または粘膜下層(T1a)にとどまっている場合です。この段階では、リンパ節転移のリスクが低く、内視鏡での完治が期待できます。

内視鏡治療には以下の2種類があります。

  • EMR(内視鏡的粘膜切除術)
  • ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

がんの大きさや形に関係なく、深達度(がんの浸潤の深さ)が浅ければ内視鏡での治療が選択されます。

※大腸ESDについての詳しい解説は、こちらをご参照ください。

4-2、進行大腸がんの治療

大腸がんが固有筋層(こゆうきんそう)まで浸潤している場合には「進行がん」と診断され、外科手術が必要となります。

固有筋層とは、大腸壁の中でも粘膜下層よりさらに深い層であり、ここまでがんが達するとリンパ節転移のリスクが高くなるため、単なる内視鏡治療では完治が難しくなります。

外科手術の概要

大腸がんの手術では、がん病巣に加えて、周囲のリンパ節も郭清(かくせい:切除)することが基本となります。

手術方法には、以下の種類があります。

  • 開腹手術
  • 腹腔鏡手術
  • ロボット支援手術

ロボット支援手術(ダビンチ手術)

特に直腸がん(肛門に近い部位のがん)では、骨盤内という狭い空間で精密な操作が必要となるため、ロボット支援手術が非常に有効です。

ロボット支援手術では、関節可動域のある器具を用いて、より繊細で安全な手術が可能になります。

腹腔鏡手術

腹腔鏡手術は、お腹に小さな孔を複数開けて、細い鉗子(かんし)を操作する手術方法です。

術後の回復が早く、傷跡も小さく済む利点があります。ただし、直線的な鉗子の動きしかできないため、骨盤内など狭い部位での操作は難易度が高くなります。

※熟練した外科医であれば腹腔鏡手術でも高い成績が得られることが報告されています。

4-3、遠隔転移がある大腸がんの治療

遠隔転移(肝臓・肺・腹膜など他の臓器への転移)がある場合の治療方針は、転移巣の切除可能性と患者さんの全身状態によって決定されます。

治療の選択肢

状況治療方針
転移巣・原発巣ともに切除可能手術で両方を切除
転移巣のみ切除可能、原発巣は切除困難化学療法または局所療法を選択
両方切除困難全身化学療法、放射線療法、局所治療(ラジオ波焼灼など)を検討

治療の目的は、根治(完治)を目指す場合もあれば、症状緩和や延命を目的とする場合もあります。

5章、大腸がんを予防するためには

大腸がんは、生活習慣の改善によりリスクを大幅に低下させることができると考えられています。ここでは大腸がん予防に有効とされる生活習慣について詳しく解説していきます。

5-1、運動は大腸がんと強く関係する

運動不足は大腸がんのリスク要因の一つとされています。

・ウォーキングや水泳など中等度の運動を週に合計150分以上

・ランニングや筋トレなど強度の高い運動なら週に75分以上

を目安に運動することで、大腸がんのリスクを25%以上低減できるとされています。

逆に、テレビ視聴など座ったままの時間が長い人は、大腸がんリスクが25〜50%高まると報告されています。

5-2、適正体重の維持

肥満もまた大腸がんリスクを高める要因です。特に男性では、肥満により大腸がんリスクが50%も上昇するとされています。

体型大腸がんリスク直腸がんリスク
肥満男性50%増加20%増加
肥満女性20%増加10%増加

日々の食生活管理と適度な運動で、健康的な体重を維持することが大切です。

5-3、アルコールとタバコは大腸がんのリスクを高める

アルコールとタバコは大腸がんの発症リスクを高めることが知られています。

1日に2〜3杯のアルコールを常習的に摂取する人は、たまにしか飲まない人に比べて約20%大腸がんリスクが高まると報告されています。さらに、3杯以上飲む人では、約40%もリスクが上昇する可能性があるとされています。

また、タバコは特に直腸がんとの関連が強く、長期間喫煙を続けると、大腸がんによる死亡リスクも上昇することがわかっています。

健康維持のためには、アルコール摂取量の節度ある管理と禁煙が非常に重要です。

5-4、健康的な食事は大腸がんの予防になる

食生活の内容も大腸がんのリスクに大きく関与します。

推奨される食品

  • 野菜
  • フルーツ
  • オリーブオイル
  • 大豆製品
  • 鶏肉
  • 低脂肪乳製品
  • 全粒穀物

控えた方がよい食品

  • 赤肉(牛肉・豚肉・羊肉など)
  • 加工肉(ハム・ソーセージなど)
  • 精製穀物(白米、白パン)
  • お菓子類
  • 高脂肪乳製品
  • バター
  • フライドポテト類
  • 高脂肪のグレービーソース

※食事内容は腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)にも影響を与え、炎症を引き起こしやすくなるディスバイオーシス(腸内バランス異常)に陥ると、大腸がんのリスクが高まる可能性があります。

詳細は「腸内細菌(善玉菌・悪玉菌)を理解して腸活を!」も参考にしてください。

5-5、その他の大腸がん予防に関係する因子

カルシウム

乳製品やサプリメントによる適度なカルシウム摂取は、大腸がんリスクを低減する可能性があると考えられています。ただし、過剰摂取は推奨されません。

食物繊維

食物繊維の摂取は、便通を促進し、大腸内の有害物質の滞留を防ぐことで、大腸がんのリスクを減少させると考えられています。

ただし、最近の研究では、繊維の効果に一部疑問を呈するものもあり、今後の研究の推移が注目されています。

フルーツと野菜

野菜・果物の摂取は、特に野菜において大腸がん予防効果が示されている報告が多く存在します。豊富な抗酸化物質(フラボノイド・カロテノイドなど)が関与していると考えられます。

ただし、近年では「大腸がん予防効果は限定的」とする報告もあり、食事全体のバランスを重視することが推奨されています。

赤肉と加工肉

赤肉や加工肉の過剰摂取は、発がん性リスクが高まることが確実視されています。

赤肉中のヘム鉄、加工肉に含まれるニトロソ化合物、調理過程で生成される多環芳香族炭化水素やヘテロサイクリックアミンなどが発がんに関与していると考えられます。

ビタミンD

血中ビタミンD濃度が高い人は、大腸がんリスクが低い可能性があるとの報告もありますが、現時点では確固たる結論には至っておらず、今後の研究が待たれます。

教育レベル

米国のデータによると、高学歴の人ほど大腸がん検診受診率が高い傾向が見られ、教育レベルと健康意識の高さには一定の相関があると考えられています。

早期がん治療の案内

早期発見された大腸がんは、内視鏡による切除(ESD)で治療できる場合があります。詳しい治療方法についてはこちらをご覧ください。

まとめ

今回は、大腸がんの初期症状から検査・治療・予防方法まで幅広く解説しました。

大腸がんについて押さえておくべきポイント

  • 大腸がんの初期段階では、ほとんど症状が出ないことが多い
  • 排便状況の変化やわずかな血便を見逃さないことが重要
  • 進行すると血便、腹部膨満、腸閉塞症状などが現れる
  • 疑わしい症状があれば、迷わず大腸カメラ検査を受けるべき
  • 大腸カメラ検査が早期発見・早期治療のカギとなる
  • 適切な生活習慣(運動・体重管理・禁煙・健康的な食事)で予防できる

大腸がんは「早期発見すれば完治が可能な病気」です。ほんの小さな変化にも敏感になり、定期的な検査を受けることが自分自身を守る第一歩となります。

「気になる症状がある」「少しでも不安がある」という方は、ぜひ専門クリニックで検査を受けてみてください。

※この記事は2022年9月30日に公開された内容を、2025年5月3日に最新の情報に基づき加筆・修正しました。

参考文献

施設紹介

東京千住・胃と大腸の消化器内視鏡クリニック 足立区院 >>

ホームページ https://www.senju-ge.jp/

電話番号 03-3882-7149

住所 東京都足立区千住3-74 第2白亜ビル1階

診療時間
9:00~12:00
14:00~17:30

※予約検査のみ
※祝日のみ休診

アクセス

JR北千住駅西口より徒歩2分、つくばエクスプレス北千住駅より徒歩2分、東京メトロ日比谷線北千住駅より徒歩2分、東京メトロ千代田線北千住駅より徒歩2分、東武伊勢崎線北千住駅より徒歩3分

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