
「排便時に痛みがあってトイレに行くのをためらう」
「生理じゃないのにトイレットペーパーに血がついた」
「肛門の近くに腫れぼったい違和感がある」
このような症状を感じたことはありませんか?
もしかすると、それは「痔(じ)」が原因かもしれません。
痔は、男女問わず多くの方が悩むとても身近な疾患です。出血が続いたり、違和感があると不安になりますよね。
一口に「痔」といっても、いくつかの種類があり、それぞれ原因や治療法が異なります。
また、普段の生活習慣が、知らないうちに痔を引き起こす要因になっていることも少なくありません。痔について正しい知識を身につけることは、予防や早期発見につながります。
この記事では、痔の基本知識をわかりやすく解説していきます。不安を減らし、適切な対策が取れるよう一緒に学んでいきましょう。
目次
1章 そもそも痔ってどんな病気?
「痔」という言葉自体は耳にしたことがあっても、実際にどのような病気なのか詳しく知っている方は少ないかもしれません。
痔は、大きく以下の3つに分類されます。
- いぼ痔(痔核)
- 切れ痔(裂肛)
- 穴痔(痔瘻)
それぞれの特徴について、次の章から詳しくご説明していきます。
痔による出血に関する詳しい情報は、こちらの記事もぜひご覧ください。
2章 痔の種類ごとの特徴
2-1 いぼ痔(痔核)とは
いぼ痔(痔核)は、痔の中で最もよく見られるタイプです。
- 肛門の内側にできるものを「内痔核」
- 肛門の外側にできるものを「外痔核」
このイボの正体は、肛門周辺の静脈が血流の悪化によってうっ血し、膨らんだものです。
長時間の座位や、排便時に強くいきむ習慣があると、イボができやすくなります。
初期には痛みがない場合が多いですが、進行すると排便時にイボが外に飛び出す「脱肛(だっこう)」が起き、違和感や出血を伴うことがあります。
2-2 切れ痔(裂肛)とは
切れ痔(裂肛)は、肛門の皮膚が切れたり裂けたりする状態です。
便が硬いときに無理に排便しようとすることで、肛門周囲の皮膚に強い負担がかかり、亀裂が生じます。
また、下痢が続くことによる皮膚のただれが原因で、切れ痔が起きる場合もあります。
一度切れてしまうと、排便のたびに再発しやすく、慢性化しやすい特徴があります。
2-3 穴痔(痔瘻)とは
穴痔(痔瘻)は、直腸と皮膚の間にトンネル(痔管)ができ、膿が排出される病態です。
肛門と直腸の境目にあるくぼみに細菌が入り込んで感染し、炎症を繰り返すことで痔管が形成されます。
特に、軟便や下痢が続く方は便がくぼみにたまりやすく、痔瘻を発症しやすいといわれています。
3章 女性は痔になりやすい3つの理由について
女性同士でも、「痔」の話題になることはなかなかないかもしれません。
たとえ悩んでいたとしても、恥ずかしくて打ち明けられず、ひとりで抱え込んでいる方も多いでしょう。
しかし、女性には女性ならではの、痔になりやすい理由が存在します。
ここでは、女性が痔になりやすい主な3つの原因を解説していきます。
3-1 女性は便秘になりやすい
- 女性は男性に比べて便秘になりやすい体質を持っている
便秘になると、硬い便を無理に出そうとして肛門が傷つき、切れ痔になりやすくなります。
また、便秘によって便が長期間腸内にとどまると、水分が吸収されすぎてさらに硬くなり、便通がますます悪化してしまいます。
便秘と強いいきみの習慣が続くと、いぼ痔(痔核)にもつながりやすくなります。
3-2 女性ホルモンの影響
- 黄体ホルモン(プロゲステロン)が腸の動きを抑制する
排卵後から月経までの間は、黄体ホルモンが活発に分泌されるため、腸の動きが鈍くなり便秘になりやすい傾向にあります。
その結果、痔のリスクが高まることになります。
3-3 女性は筋力が弱い
- 排便に必要な腹筋や骨盤底筋群が男性より弱い
腹筋や骨盤底筋群が弱いと、排便時に便を押し出す力が足りず、便秘を招きやすくなります。
便秘により強くいきむことが習慣化すると、痔を発症するリスクがさらに高まります。
*男性でも、もちろん痔になります
男性も痔に悩むケースは多く、特に穴痔(痔瘻)の発症は女性より多いとされています。
また、いぼ痔(痔核)は男性にやや多く、切れ痔(裂肛)は女性に多い傾向がみられます。
飲酒や長時間座ったままの生活(デスクワーク)なども痔の悪化要因となるため、男女問わず注意が必要です。
4章 便秘は痔に大きく関わる
これまでの章でも触れてきた通り、便秘は痔の発症や悪化に深く関係しています。
つまり、痔の予防・改善には、便秘対策が不可欠ということです。
便秘には、大きく分けて次の4つのタイプがあります。
- 器質性便秘
- 弛緩性便秘
- 痙攣性便秘
- 直腸性便秘
それぞれの特徴を見ていきましょう。
4-1 器質性便秘
胃・小腸・大腸・直腸など、消化管そのものに異常が起きて便秘を引き起こしている状態を指します。
たとえば、大腸がんや腸閉塞(イレウス)によって腸の通過が妨げられると、スムーズな排便ができなくなります。
この場合、単なる便秘治療ではなく、根本原因である病気自体の治療が必要です。
放置すると命に関わることもあるため、早めの受診が重要です。
4-2 弛緩性便秘
腸の筋肉が緩み、便を押し出す力が弱まって便秘になるタイプです。
便が腸内に長く滞留することで水分が過剰に吸収され、便が硬くなり、排便が困難になります。
弛緩性便秘は、運動不足、水分摂取不足、過度なダイエットなどが主な原因とされています。
便秘の中でも最も頻度が高いタイプです。
4-3 痙攣性便秘
副交感神経が過剰に働くことで腸がけいれんし、便がうまく移動できなくなる状態です。
ストレスや自律神経の乱れが関与していることが多く、過敏性腸症候群(IBS)と関連して発生するケースもあります。
腸の緊張が強すぎるため、便の通過が不規則になり、便秘や下痢を交互に繰り返すこともあります。
4-4 直腸性便秘
便が直腸まで届いても、便意を正常に感じられないことで排便が滞る便秘です。
寝たきりの高齢者、便意を我慢しがちな方、また痔による痛みで排便を避けるようになった方に多く見られます。
便意を感じたらできるだけ我慢せず、すぐトイレに行く習慣をつけることが大切です。
5章 主な痔の症状とは
痔によって現れる症状にはさまざまなものがあります。
代表的な症状は以下の4つです。
- 肛門の痛み
- 肛門からの出血
- 発熱
- 残便感
それぞれの症状について詳しくみていきましょう。
5-1 肛門の痛み
肛門の痛みは、特に切れ痔(裂肛)の症状として多く見られます。
硬い便を排出しようとする際に肛門周囲の皮膚が裂けるため、鋭い痛みを感じます。
また、穴痔(痔瘻)や外痔核でも、炎症によって腫れたり破れたりすることで痛みが生じます。
強い痛みを感じる場合は、患部を清潔に保ち、早めに医療機関を受診することが重要です。
5-2 肛門からの出血
排便時に鮮血が見られる場合、切れ痔やいぼ痔(痔核)が原因であることが多いです。
少量の出血であっても、長く続くようであれば注意が必要です。
特に、排便時に肛門から何かが飛び出してくる感覚(脱肛)がある場合、重症化している可能性もあるため、早めに受診をおすすめします。
5-3 発熱
痔で発熱するケースもあります。
特に穴痔(痔瘻)では、直腸と皮膚の間に膿が溜まることによる強い炎症が原因で、発熱が起こることがあります。
高熱や膿の排出などが見られる場合は、速やかに医療機関で治療を受ける必要があります。
5-4 残便感
内痔核による直腸の圧迫や、穴痔による違和感が原因で、排便後にも「便がまだ残っている」ような感覚を覚えることがあります。
このような残便感も痔の代表的な症状のひとつです。
6章 痔の検査について
病院で痔が疑われた場合、どのような検査が行われるのでしょうか。
ここでは、痔の診断に使われる主な検査方法をご紹介します。
6-1 痔の問診
まず最初に行われるのが「問診」です。
普段の生活習慣、排便の状況、症状が出始めた時期、出血や痛みの有無など、詳しく聞き取ります。
この問診によって、どのタイプの痔が疑われるかを絞り込み、必要な検査を選択します。
6-2 痔の視診・触診
次に、肛門の周囲を目で観察したり、指で触れる「視診・触診」が行われます。
肛門周囲の炎症、出血、腫れ、脱肛などの有無を確認します。
また、肛門内部に異常がないか、慎重に触診を行うことで、より正確な診断が可能になります。
6-3 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
さらに詳しい検査が必要と判断された場合、「大腸内視鏡検査(大腸カメラ)」を行うこともあります。
これは、肛門から内視鏡を挿入して直腸や大腸の内部を直接観察する検査です。
痔と似た症状を起こす大腸がんやポリープなどの重大な疾患を見逃さないためにも、非常に重要な検査となります。
「単なる痔」だと思い込まず、必要に応じて大腸カメラを受けることをおすすめします。
7章 痔の治療について
痔の治療方法は、症状の種類や重症度に応じてさまざまです。
大きく分けると、次の3つの治療法があります。
- 内服治療
- 外用薬治療
- 外科手術
それぞれの治療法について詳しく解説していきます。
7-1 痔の内服治療
内服治療は、医師から処方される薬を服用することで行います。
主に以下のようなお薬が使用されます。
- 抗炎症薬:炎症を抑えて痛みを軽減します。
- 血流改善薬:肛門周囲の血流を良くし、うっ血を改善します。
薬によって炎症や腫れが和らぐと、痛みや出血も落ち着き、日常生活が楽になります。
7-2 痔の外用薬治療
外用薬治療では、肛門に直接作用させる薬を使用します。
主に以下のタイプがあります。
- 坐薬タイプ:肛門内に挿入し、直腸周囲に作用させる。
- 軟膏タイプ:肛門周囲に塗布して炎症を抑える。
局所的に炎症を鎮め、痛みを和らげる効果が期待できます。
7-3 痔の手術治療
内服薬や外用薬では改善が難しい場合や、症状が重度の場合は、外科的な手術が検討されます。
手術適応となる主なケースは以下のとおりです。
- 脱肛(痔核が常に外に出た状態)を伴う場合
- 慢性的な切れ痔により肛門が狭窄している場合
- 穴痔(痔瘻)で痔管が形成されている場合
痔の種類や状態に応じて、最適な手術方法が選択されます。
8章 お家で簡単!痔を予防する3つの方法
痔になってしまったり、悪化してしまう前に、日常生活でできる簡単な予防策を取り入れることが大切です。
ここでは、誰でも気軽に実践できる予防法を3つご紹介します。
8-1 食事の際によく噛んで食べる
食事をよく噛んで食べることで、消化が助けられ、腸の負担が減ります。
便通がスムーズになり、便秘や硬便を防ぐことで、肛門への負担を軽減し、痔の予防につながります。
普段から意識して「一口30回」を目安によく噛む習慣をつけましょう。
8-2 水分をしっかりと摂る
水分摂取は、便を適度な柔らかさに保つために欠かせません。
目安として、1日に1.5リットル程度の水分をこまめに摂取するよう心がけましょう。
便秘を防ぐことで、排便時の強い負担を避けることができ、痔の予防になります。
8-3 お尻を清潔に保つ
肛門周囲を常に清潔に保つことも、痔の予防には重要です。
- 毎日入浴して清潔を保つ。
- 便後はウォシュレットを適度に使用する(やりすぎに注意)。
- 柔らかいトイレットペーパーでやさしく拭く。
ただし、強くゴシゴシこすったり、ウォシュレットの水圧を高くしすぎたりすると、逆に肛門を傷つけてしまうため注意が必要です。
まとめ 痔に悩まない生活を目指して
ここまで、痔について詳しく解説してきました。
最後に、本記事の重要なポイントを振り返りましょう。
- 女性も男性も、痔になるリスクはある。
- 便秘を防ぐことが、痔の最大の予防策となる。
- 痔にはいくつか種類があり、それぞれ治療法が異なる。
- 症状が進行すると、手術が必要になる場合もある。
- 自己判断せず、早めに医療機関で検査・診断を受けることが重要。
- 日常生活でできる予防策を取り入れるだけで、リスクを大きく減らせる。
痔は、決して特別な病気ではありません。
誰にでも起こりうる身近なトラブルだからこそ、正しい知識と早めの対応が大切です。
ちょっとした心がけで、痔を防ぎ、快適な生活を取り戻すことができます。
もし、痔かもしれないと思ったら、我慢せずに専門の医師に相談しましょう。
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※この記事は2022年10月7日に公開された内容を、2025年5月5日に最新の情報に基づき加筆・修正しました。