
世界のがんの中で第3番目に多いと言われている大腸がんですが、下剤との関係性はどのようになっているのでしょうか?便秘症は、人口の約10%が罹ると言われており非常に重要な疾患です。下剤を定期的に使用する人も多いため、大腸がんとの関連性も重要なものとなります。
下剤を定期的に使用されている多くの方の中で、下剤と大腸がんの関係性があるのかどうか気になっている方もいるかと思います。
下剤使用者において、自分の身体に下剤がどのように影響しているかを知っておくことは大事なことです。とくに下剤が大腸がんの発生に影響しているかどうかを知ることは、安心して下剤を使用するためにも大腸がんの予防という意味でも非常に重要になってきます。
今回は、下剤の使用と大腸がんの関係について詳しく解説したいと思います。
大腸がんの発生と下剤の関係性はあるのか?
結論から言うと、下剤の使用と大腸がんの発生には関係が無い可能性が高い。
通常、長期間の薬剤(抗生物質など)の内服や乱用は、腸内細菌叢の変化や免疫応答の破壊をもたらすことで大腸がんのリスクになると考えられています。

では下剤を内服している場合にはどうかというと、大腸がんの発生とは関係ないというデータが報告されています。1988年~2018年までに報告された論文で41万5,313人の下剤内服患者を解析したデータでは、下剤と大腸がんのリスクとの関係性は発見されませんでした。
下剤にはいくつかの種類がありますが、特定の種類の下剤に関しては、大腸がんの発生のリスクになるどころか予防的な役割となっていると報告されています。
では下剤にはどのような種類のものがあるのでしょうか?次に下剤の種類について解説したいと思います。
下剤の種類とその作用について
下剤の種類に関しては以下のようなものがあります。
- ① 浸透圧性下剤
- ② 刺激性下剤
- ③ 膨張性下剤
- ④ 上皮機能変容薬
代表的な下剤としては上記のようなものがあります。
浸透圧性下剤
浸透圧性下剤の代表的なものとして酸化マグネシウムが挙げられます。浸透圧性下剤は、腸管内の浸透圧を高めることで腸管内の水分を多くして便を柔らかくして排便を助ける便秘薬です。
刺激性下剤
刺激性下剤は、その名の通り腸管を刺激することで腸管の蠕動運動を促し排便を助ける便秘薬です。センナやピコスルファートナトリウムなどがあります。
膨張性下剤
膨張性下剤は、腸管内で水分を吸収してその容積を大きくすることで便量を増やして排便を促す便秘薬です。ポリカルボフィルカルシウムやプランタゴ・オバタなどがあります。
上皮機能変容薬
上皮機能変容薬には、ルビプロストン、エロビキシバット、リナクロチドなどがあります。これらの薬剤は、腸管にある受容体に作用して腸管内の水分を増加させ腸管運動を高めることで排便を助ける便秘薬です。
便秘薬の種類とその作用まとめ
大分類 | 小分類 | 一般名(商品名) | 作用・特徴 |
---|---|---|---|
緩下剤 | 塩類下剤 | 酸化マグネシウム(マグラックス®) | 浸透圧により糞便を軟化。 高マグネシウム血症に注意。 |
浸透圧下剤 | ラクツロース、D-ソルビトール | 浸透圧作用による排便促進。 小児・妊婦のみ保険適応。 | |
膨張性下剤 | ポリカルボフィルカルシウム(コロネル®)、プランタゴ・オバタ | 水分を吸収して膨張し、糞便量を増加させる。 腹部膨満を生じることがある。 | |
上皮機能変容薬 | – | アミティーザ(ルビプロストン)、リンゼス(リナクロチド) | 小腸で腸液分泌を促進する。 エビデンスが高い。 |
大腸刺激性下剤 | – | センナ類(プルゼニド®、アローゼン®)、ピコスルファートNa(ラキソベロン®) | 消化管神経を刺激して腸管蠕動運動を促進。 長期使用で習慣性あり。 痙攣性便秘には逆効果となるため避ける。 |
便秘と下剤については、下記のブログ記事もぜひ参考にしてください。
繊維性の下剤(膨張性下剤)と大腸がん
繊維性の下剤は、大腸がんの発生に予防的に働く可能性がある。
繊維性の下剤には、多くの食物繊維が含まれているため発がん性物質を希釈したり、発がん性胆汁と結合することで大腸がん発生の予防になっているのではないかと考えられています。
また、食物繊維は腸管内において短鎖脂肪酸(SCFAs;Short-Chain Fatty Acids)の産生に役立つため予防的に働いているとも考えられます。短鎖脂肪酸は、腸管内で腸内細菌により食物繊維が発酵される過程で産生される有機酸のことを言います。短鎖脂肪酸には、腸内環境の改善・抗炎症作用・免疫力の向上などの効果があると言われています。
このように線維性下剤は、食物繊維やそれにより産生された短鎖脂肪酸によって大腸がんに予防的に働いている可能性があるかもしれません。
腸内細菌と短鎖脂肪酸などについては下記の記事をご参考にしてください。
その他の下剤と大腸がん
酸化マグネシウム、センナなどの刺激性下剤に関しては予防的な働きを示すことは無いようですが、大腸がんの発生とは関係が無いという報告となっています。
大腸がんの発生に関しては、薬剤だけではなく運動不足・食事・基礎疾患などが複雑に関係してくるため下剤だけでリスクを判定するのは難しいですが、下剤自体は大腸がんの発生とは関係がないということもあり安心して使用することができるかと思います。
ただし、下剤の乱用や不適切な使用に関しては、便秘を悪化させる可能性がありますので、容量・用法を守り主治医による定期的な診察を受けられることを強く推奨いたします。
まとめ
今回は大腸がんの発生と下剤の使用については解説しました。下剤の使用については、大腸がんの発生とは関係が無く、繊維性の下剤(膨張性下剤)については予防的に働く可能性が高いという報告でした。
あくまで41万人のデータですので、今後のさらなる大規模なstudyが待たれるところではあります。
下剤の使用は、大腸がんの発生とは関係が無い可能性が高いという結果でしたが、使用に関しては主治医と相談しつつ適切に内服することが大切です。
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